民俗学者の赤田光男帝塚山大学名誉教授は、死者が先祖となる過程について、「蘇生」「絶縁」「成仏」「追善」という4要素を経て、そのたびに儀礼・供養を繰り返し、それにより死者は先祖となっていくとしています。

 命終した人の蘇生を願う儀礼が、「蘇生儀礼」で、親族が空の方向や井戸の底を覗き見しながら、死者の名を呼び、霊魂を肉体に呼び戻すといったような儀礼が各地に見られるようです。

 儒教の招魂儀礼に似ているものと思われます。
 
 葬儀の出棺の際に死者が使用していた茶碗などを門口で割る、近隣の死者の報を耳をふさいで聞かないようにするといったような儀礼が「絶縁儀礼」で、これは、死者との関係を絶とうとするものです。

 蘇生儀礼で、死者の霊魂が肉体に戻らないとわかると、愛慕の念が恐怖の念に変わるというところから、このような儀礼が生まれたものと思われます。

 次に、葬儀を終えた後、死者を無事あの世に送り出す儀礼を「成仏儀礼」といい、日本では、仏教儀礼として行われる場合が多いようです。

 燕が、無事死者をあの世へ送ってくれるようにと、墓地に燕の模型を置いたりするといったような伝承も聞かれます。

 そして、いわゆる法要、法事等を「追善儀礼」といいます。

 忌明け以降の、百か日・一周忌・三回忌・七回忌などの年忌法要を指し、三十三回忌~五十回忌まで行われる場合が多いとされています。

 この追善儀礼を経て、「弔い上げ」と呼ばれる、死者に対する祭祀の終了を意味する儀礼が行われる場合もあり(三十三回忌又は五十回忌をもって弔い上げとする場合が多いようです)、

 これにより、死者が先祖となるとする習俗が多いと民俗学的には考えられています。

 このように長い期間をかけて儀礼を行うことにより、死後直後の死者の荒ぶる霊魂が静まり浄化され、神聖な先祖へと昇華するとの考え方に基づくものだとされています。

 また、百か日・一周忌・三回忌にも、儒教の影響が見られますが、中国仏教に儒教が取り込まれ、それが日本にも伝わったからだと考えられています。

 七回忌以降の年忌法要は、「十三仏(冥界の審理を行うとされる13の仏)信仰」等の影響を受けた、日本独自のものと言われています。

 なお、仏教の多くの宗派では、死後49日まで、死者は、「中陰(中有)」という状態にあり、この世とあの世をさ迷うと考えているようです。

 この間、死者は、7日ごとに、閻魔などの10名の冥界の王・総司達の審理を受け、49日に、輪廻先が決定されるとされます。

 死後7日目の「初七日」から、49日目に行われる「七七日(なななのか:四十九日、満中陰ともいいます。)」、

100日目に行われる「百か日」までの忌日法要は、遺族が故人の成仏を祈り、極楽等の浄土(清浄で清涼な仏の世界)に赴けるよう願う、故人に善を送る追善供養です。

 「七七日」に忌明け法要を行い、納骨埋葬するという日程が通常のようです。

 なお、「百か日」は、卒哭忌(そつこくき)ともいい、哭(な)いて過ごした日々を、卒(お)えるという意味があり、もとは、儒教の『礼記(らいき)』という書物に由来があるもので、前述したように、これを仏教が取り込んだものだとされています。

 深い信心を持った人は、命終とともに、すぐに浄土に赴くため、中陰はないとし、追善も必要なしとする仏教の宗派もあります。

 ただ、その場合でも、報恩感謝のため、また故人を偲び、さらに人生を見つめなおす等の意味合いから儀式が行われる場合もあります。

 また、これらの儀式は、死者の霊を慰めるといったような宗教的意味、民俗学的意味、故人の逝去を告知し、別れの儀式を行うといった社会的意味だけでなく、臨床心理学的意味、すなわち、残された者の悲しみを慰めるといった、グリーフ・ケア(悲嘆のケア)としての役割もあるものと考えられています。

 次に、アイヌの民俗学的死生観をみていきたいと思います。

 アイヌの人達は、死者は、地下にあると信じられていたポクナモシリと呼ばれる他界に赴き、現世と全く同じ生活をし、しばらくの間そこに留まり、また再びこの世に誕生するという死生観をもっていたようです。

 なお、神々が住まう天にあるという世界は、カムイモシリ、地にある人間が住む現世の場所は、アイヌモシリと呼ぶとのことです。

 民俗学的には、大きくわけて、二つの他界(あの世)観があるとされています。

 ひとつは、死者の霊が近隣の山にいて、子孫を見守り、盆正月のような時期に家に帰ってくるという「山中他界観」です。

 そのような死者の霊が留まる山として、恐山(青森)、高野山(和歌山)などがあるとされています。

 もうひとつは、山ではなくて、海に死者の他界があるとする、和歌山の補陀落渡海(南海のかなたにある浄土)観や、沖縄のニライカナイ(東海のかなたあるいは、他の伝承によっては地界又は海底にあるとされる異界)観のような、「海上他界観」です。

 なお、ニライカナイは、琉球列島各地の伝承に伝わる異界で、ニライカナイの最高神である東方大主(あがりかたうふぬし)が治める神界であり、理想郷であり、豊穣や生命の源であるとのことです。

 伝承によると、人の魂は、ニライカナイからやってきて、死を迎えるとニライカナイに帰っていき、祖霊となり、また死後七代経つと、祖霊は神となり、守護神となって村に戻ってくるとのことです。

(ただ、伝承によっては異なる内容となっている場合もあります。)

 そのため、沖縄では今も、祖霊、守護神つまり、神となる、あるいは神となった祖先を非常に敬い、祖先崇拝を非常に大事にしているとのことです。

 他にも、天上他界観や、地下他界観(日本神話における黄泉、前述のポクナモシリ等)などもありますが、

民俗学的他界観は、次元の異なる空間世界に行くというのではなく、人里離れたこの世の果てに、他界があるという考え方がベースになっているものが多いようです。

参考文献): 『人は死んだらどうなるのか?』 斉藤弘子著 言視舎 2015年
『手にとるように民俗学がわかる本』岸祐二著 かんき出版 2002年
 『図解雑学 こんなに面白い民俗学』八木透・正岡伸洋編著 ナツメ社 2005年

  行政書士・マンション管理士・1級建設業経理事務士 佐々木 賢 一

(商工会議所認定 ビジネス法務エグゼクティブ(R)・日心連心理学検定(R)特1級認定者(第16号)・日商簿記検定1級認定者・FP)

大阪府行政書士会所属(会員番号4055)・大阪府行政書士会枚方支部所属

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