旧約聖書のサムエル記上16章23節に、「ダビデが傍らで竪琴を奏でると、サウルの心が安まって気分が良くなり、悪霊は彼を離れた。」とあります。

 古くから、音楽には心の痛みを癒す力があることが知られ、重要なケアとして用いられていたことが伺えます。

 音楽によって、終末期や臨死期にある患者の精神的、肉体的苦痛を緩和する療法は、古代ギリシャの神殿や中世の修道院などで実践されていたとのことです。

  米コロラド州の施設で学資を稼ぐために、アルバイトとして老人介護に当たっていた、当時学生だった、現在は著名ゴシック・ハープ奏者で、歌手のテレーズ・シュローダー・シェーカー(Therese Schroeder=Sheker)氏は、

心身ともにもがき苦しむ、臨死の患者に対してとっさに、彼の頭を抱きながら、グレゴリオ聖歌を歌ったところ、その患者は穏やかな表情となり、安らかに旅立っていきました。

 臨死の患者を前に、とっさにとったこの経験から彼女は、おそらく、まるで神話の世界かのような神聖な何かを感じ取り、非常に深いインスピレーションを受けたのでしょう。

 そこで、彼女はこのようなターミナル音楽療法的な臨床死生学を、「音楽死生学(Music-Thanatology)」と名づけ、1970年代前半から活動をはじめ、

1990年代初頭に、その全体的なプロジェクトである、「魂の休息の杯」(The Chalice of Repose Project)と呼ばれるプロジェクトを確立させたとのことです。

 現代でも、世界各地で、音楽死生学に基づく音楽療法を行う人達がいて、その中でも、アメリカの「魂の休息の杯」(The Chalice of Repose Project)は、

30年以上にわたって、ホスピス・緩和ケア、在宅ケアの場で、終末期・臨死期にある、患者やその家族に、ハープ音楽と祈りとしての歌を提供する活動(このような活動は、「リラ・プレカリア(Lyra Precaria:祈りのたて琴)」と呼ばれる場合があるようです。)を続けてきたそうです。

 専門のトレーニングを受けた音楽療法家が祈りを込めながら、患者の好きな音楽を、

(好きな曲であっても、場合によっては、悲しい思いを誘発することもあるので、思い入れのない、患者のなじみの無い音楽を、先入観を持ちにくいラテン語などで歌い、奏でるという方針を採る場合もあるようです。)

患者の呼吸を気遣いながら、患者の容態と呼吸に合わせるように静かにゆっくりと奏でる、

このようなターミナル音楽療法の効果として、不眠の改善、呼吸の安定、表情の緩和、心理的不安の軽減、心拍数及び体温の好転、

さらにこのような身体面への効果のみならず、

死への恐怖の軽減、孤独感・疎外感の融和、関係性の修復及び強化、許し・和解など、スピリチュアルケア的な効果についても、報告されているとのことです。

 ハープの音色が、安らぎを与えることは、脳波からも確認されたという報告例もあるようで、また患者だけではなく、その家族の苦悩をも和らげる効果があるとの報告例もあるようです。

 日本では、音楽死生学に基づくターミナル音楽療法はまだ一般的でなく、

諸外国で報告されているような有効性が、日本でもあるのか、文化的違いによる影響はあるのか等の信頼のおける臨床実証及び研究発表が待たれるところですが、

日本においても、すでにターミナル音楽療法の実践をされておられる方々はもちろんおられ、やはり、患者の表情が穏やかになり、呼吸状態が安定したり、痛みが和らぐこと等の効果のある臨床例が報告されているようです。

 音楽の持つハーモニーが、極度のストレスによる精神的な動揺を鎮め、心的な調和を回復する一助になるとのことです。

 また、アルフォンス・デーケン上智大学名誉教授によれば、ターミナル音楽療法は、前述のような、身体的・精神的治療効果だけではなく、

音楽により描き出されるイメージが、心を閉ざしがちになる患者との対話のきっかけとなって、深みのあるコミュニケーションを生み、思いがけない出会いにつながるなど、心の交流の輪を広げる効果もあるとのことです。

 現在のターミナル音楽療法は、聖書の伝統に則って、聖歌や祈祷歌、子守歌、童謡を、ハープの独奏により演奏する場合が多いようです。

 このように、ただ一人のために奏でられる音楽を、「プリスクリプティヴ・ミュージック」といい、また「リラ・プレカリア(祈りのたて琴)」では、これを「パストラル・ハープ」ないし「パストラル・ミュージック」と呼んでいるようです。

 その他の曲や、ギター、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、ピアノ、オルガン、木管楽器、金管楽器、日本琴等の日本の楽器等のハープ以外のその他の楽器で行われた場合や、CDで音楽を聴いてもらう等の場合も、効用があるものと思われ、多様な形態での研究・実践・音楽療法家教育等が行われることを期待したいと思います。

 音楽は、心の最も奥深いところ、ユングの言葉を借りれば、集合的無意識に響き、神聖な世界の扉を開け、そこに分け入ることができるものなのかもしれません。

 ターミナル音楽療法の実践においては、それがより一層際立つこととなり、その臨床の場は、奏でられる音楽から溢れ出るような、まばゆい光と祈り、そして言葉に表しようがない愛に抱かれた、荘厳な神話の世界そのものとなります。


参考文献)
http://lyraprecaria.kibounoie.info/ (『リラ・プレカリア(Lyra Precaria)は祈りのたて琴』)
http://www.nhkso.or.jp/library/kaleidoscope/3488/ (N響 『死に逝く人を癒す音楽の力死を超えて未来に向かって心を開く』アルフォンス・デーケン)
http://www.47news.jp/47topics/ningenmoyou/40.html (47NEWS 地球人間模様『ハープを奏でて最後を看取る』)
http://www.hospicecare-hiroshima.org/modules/pico/index.php/content0017.html (広島ホスピスケアをすすめる会『霊的な痛みとハープによる祈りとしての音楽』
http://www.hospicecare-hiroshima.org/modules/pico/index.php/content0020.html (広島ホスピスケアをすすめる会『人(患者さん)と音・音楽』)
https://www.youtube.com/watch?v=O_K0a9KP9u0 (Hospice Music Thanatology http://CNS-CARES.org)

 行政書士・マンション管理士・1級建設業経理事務士 佐々木 賢 一

(商工会議所認定 ビジネス法務エグゼクティブ(R)・日心連心理学検定(R)特1級認定者(第16号)・日商簿記検定1級認定者・FP)

大阪府行政書士会所属(会員番号4055)・大阪府行政書士会枚方支部所属

Blog:http://sasakihoumukaikei.blog.jp/(大阪・寝屋川:佐々木行政書士・マンション管理士事務所ブログ)
 
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