サナトロジー(死生学)の母とも言えるのが、エリザベス・キューブラー=ロス(1926 - 2004)です。

 スイスのチューリッヒに生まれたキューブラー=ロスは、アメリカに渡って精神科医となり、臨床研究を発展させていく中で、終末期の患者との関わりや、悲哀(グリーフ)の考察、悲哀の仕事(グリーフワーク)についての先駆的な業績を残しました。

 彼女の代表的な著作としては、1969年(日本では1971年)に発表され大ベストセラーとなった、『死ぬ瞬間』(On Death and Dying)があります。

 その『死ぬ瞬間』で発表された死の受容のプロセスに関するキューブラー=ロスの学説が、「五段階説(キューブラー=ロスモデル等と呼ばれる場合もあります。)」です。
 
 離婚・失恋・死別・破産・失業・病気・死が近づいた終末期等の体験を、「喪失体験」といいます。

 そんな喪失感の中に浸りきり、当初悩ませる「納得できない。」という苦悩が消え失せ、諦め(この言葉にはマイナスイメージがありますが、本来は「事物を明らかし、真理を悟る。」という意味の仏教用語です。)、

「人生とは諦めの連続だ。人生とは諦めであり、諦めこそが人生だ(キューブラー=ロスの言葉)。そう思えれば、人生もまた結構楽しいものだ(これは、フロイトの言葉。)。」という境地に達するといいます。

 ただ、この境地に達するためには、キューブラー=ロスによると、

1.否認(喪失を認められない。)

2.怒り(なぜ、私だけがこんな体験をさせられるのだ!という怒り。)

3.取引(なんとかこの状態から救ってくれ!と天に祈ったりする。)

4.抑うつ(ショック状態、極度の緊張状態が継続したことによる心身不調となる。)

5.受容(運命との闘いを止め、運命を受け入れ、もがき続けることから開放され、静かで安らかな気持ちとなる。)

という、5つのステップを経る必要があるとされています。

 これが、キューブラー=ロスの「五段階説」です。

 キューブラー=ロスは、死期が近づいた200人の患者さんとの対話を通じて、このような受容への過程を提唱したといわれています。

  ただ、過程が重なり合って現れたり、受容にたどり着かない間に死に至る場合などもあって、その体験には、個人差があるようです。

 終末期の患者さんが、受容の段階にたどり着くと、最後にデカセクシスという段階を経て、死を迎えるといいます。

  デカセクシス(Decathexis)とは、現世との完全な断絶を自覚することであって、仏教でいう「解脱、涅槃の境地」・「無我の境地」(究極の安らぎの境地)などに該当するとも言われています。

 受容までの継起的な段階を通過した者だけが、このような平安な状態にたどり着くことができると、キューブラー=ロスはいいます。

 デカセクシスに至ると、数時間から数週間、短い間隔で、頻繁に新生児のようにウトウトとまどろむといわれています。

 その後、臨終が来るとのことです。

 仏教では、凡夫(平凡な人)は、涅槃(安らぎの境地)には、たやすく到達できないとする説もありますが、キューブラー=ロスによれば、誰でも周囲の人々の愛と協力(その本質はコミュニケーション)があれば、容易にデカセクシスに到達できるといいます。

 『死ぬ瞬間』を訳した、翻訳家の川口正吉氏(1912-1982)は、『死ぬ瞬間』のあとがきで、以下のように臨終の段階を定義しています。

(『死ぬ瞬間―死にゆく人々との対話』 エリザベス・キューブラー=ロス著 川口正吉訳 読売新聞社 1971 あとがきより以下引用)

「臨終とは、薄暗いベッドルームに宇宙の風がごうごうと吹く荘厳なドラマである。
あの限りなく複雑な精神と肉体、物質と魂とのかたまりである小さな生命体が時間と空間とを造物主に返し、宇宙の霊(スピリット)と融合して永遠性を獲得する瞬間である。」

(引用終わり)

 ちなみに、心理カウンセラーは、クライエントが、上記の5つのステップを歩む際に、傍らにいて、サポートすることを職務とする専門家であると私は考えます。 

 つまり、人が、過酷な喪失体験を受け止め、喪失対象をあきらめていく過程を、少しでも安心できる方法で行えるようにサポートする職種だということです。

 ですから、安易に、「頑張れ!」とか、「希望を持て!」とか、「諦めるな!」等とカウンセラーは言わないものと思います。

 喪失対象を「あきらめる」ことのサポートをするわけですから、何の根拠もなく、「あきらめるな!頑張れ!希望を持て!」などといい、ありえない幸福状態に移そうとすることは矛盾になるからです。

 「あきらめざるをえない。」のに、「あきらめるな!頑張れ!希望を持て!」と励ますことは、よくよく考えると過酷すぎることですし・・。

 ユングは、

(以下、「心理療法論」 カール・ユング著 林道義編訳みすず書房 p71より以下引用) 

「心理療法の最高の目的は患者をありえない幸福状態に移そうとすることではなく、彼に苦しみに耐えられる強さと哲学的忍耐を可能にさせることである。」

(引用終わり)

と言っていますが、これを言い換えると、「喪失対象を「あきらめる」ことのサポートを、安心、安全にプロフェッショナルな技術をもってするのが、カウンセラーの仕事である。」といえるものと思います。

 喪失感が、強すぎて、苦しすぎてつらすぎて、どうしようもない場合は、そんな技術を持った信頼のおけるカウンセラーを頼ってみるのもよいかもしれません。

行政書士・マンション管理士・1級建設業経理事務士 佐々木 賢 一

(商工会議所認定 ビジネス法務エグゼクティブ(R)・日心連心理学検定(R)特1級認定者(第16号)・日商簿記検定1級認定者・FP)

大阪府行政書士会所属(会員番号4055)・大阪府行政書士会枚方支部所属

Blog:http://sasakihoumukaikei.blog.jp/(大阪・寝屋川:佐々木行政書士・マンション管理士事務所ブログ)
 
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