ターミナル法務とサナトロジー

 サナトロジー(死生学)は、尊厳死問題やターミナルケアなどを背景に、1970年代に現れた新しい学問領域で、死を見つめながらも、それを乗り越え、生を見つめなおすことをも目的とするものです。そんなサナトロジーに関する情報について、多くの方々と共有していきたいと思っております。

大阪・寝屋川の行政書士・マンション管理士・FPです。東京商工会議所主催ビジネス実務法務検定試験(R)1級・日商簿記1級・日心連心理学検定(R)特1級の3つの1級資格を保持する、おそらく日本で唯一のトリプル1級ホルダーの行政書士だと思います。多角的な視点から思考することができる総合的なサポーターを目指しています。どうぞよろしくお願い申し上げます。

お問い合わせは、E-MAIL  fwkt0473@mb.infoweb.ne.jp  まで

行政書士・マンション管理士・1級建設業経理事務士 佐々木 賢 一

(商工会議所認定 ビジネス法務エグゼクティブ(R)・日心連心理学検定(R)特1級認定者(第16号)・日商簿記検定1級認定者・FP)

大阪府行政書士会所属(会員番号4055)・大阪府行政書士会枚方支部所属

Website:http://sasakioffice.la.coocan.jp/

Blog:http://sasakihoumukaikei.blog.jp/(大阪・寝屋川:佐々木行政書士・マンション管理士事務所ブログ)

全人的ケアと行政書士等の士業者によるターミナル法務

 ターミナル(終末期)ケアでは、「全人的ケア」が必要だとされています。

 身体的痛みへのケアのみならず、精神的な痛み、社会的な痛み、スピリチュアルな痛み等、あらゆる痛みに対するケアのことを、「全人的ケア」といいます。

 社会的な痛みには、社会的つながりが隔絶されてしまうという痛みであったり、遺言・相続等に対する悩み等があることでしょう。

 なお、行政書士等の士業者は、このような社会的痛みに対するターミナルケアの一端を、遺言や相続等のお手伝いを行うということで担います。

http://www.circam.jp/reports/02/detail/id=3177

(「臨床宗教師」の可能性を社会のニーズから探る~「臨床宗教師」をめぐる考察 前編~ 宗教情報センターサイト)

 上記リンク先によれば、「両親と死別した場合、家族以外で悩みなどを相談するであろう人、頼るであろう人」として、「行政書士等の士業者に頼りたいという人」が、約1割いるという統計が出ています。

 この数値は、「医療関係者や行政に相談したい」という人の割合と同じで、さらに、宗教関係者の5.7%、介護関係者の5.5%、臨床心理士、カウンセラーなどの1.3%よりも高い数値です。

 死別後に生じる悩みの相談を、行政書士等にしたいと期待されている方の割合がかなり高いようです。

 この悩みの中には、遺言・相続等の手続的なことだけではなくて、死生学的な悩みも含まれているのではないかと私は思います。

 とするならば、行政書士等の士業者も、相続・遺言等のターミナル法務に関連する依頼を承る場合、カウンセリング的アプローチや死生学的アプローチを採ることは、有用だと思われます。

 カウンセリングマインドがある行政書士等なら、相続・遺言等に関する手続のお手伝いを行うに留まらず、さらに、社会的つながりがなくなってしまうという痛みに対するケアや、精神的な痛みのケアのお手伝いも、ささやかながらできることでしょう。

 これらは、人工知能が進化しても替わってやることができない、生身の人と人とのつながりによるもので、人工知能が人間に対抗できないところだと思います。

(本格的な精神的痛みに関するケアは、精神科医や、カウンセラー等の心理学者が担当することになります。)

 さらに、死生学に興味を持つ行政書士等ならスピリチュアルケアのお手伝いもできるかもしれません。

(本格的なスピリチュアルケアは、宗教者やスピリチュアルカウンセラー、スピリチュアルケア・ワーカー等が担当することになります。)

 なお、「スピリチュアルな痛み」とは、普遍的、実存的な意味を含んだ悩みであって、

「人は、なぜ生まれてきて、なぜ、なんの目的で人生を生き、なぜこういう生き方をしてきて、そしてなぜ死ぬのか?死んだ後はどうなるのか?」

といったような根源的疑問であって、

終末期や死別に遭う事態においてこのような疑問が生まれてきてしまい、この疑問によって苦悩するということです。

 若い時に、死生学などに親しんでいるのであれば、このような苦悩も若干緩和されるかもしれませんが、高度成長期やバブル期を生き、このような根源的疑問なんて、終末期や死別に遭う事態になるまで思ってみたこともなかったという人こそ、大きな悩みを抱えることになるやもしれません。

 行政書士等のクライエントがそのような悩みを口にしたとき、ただ黙って頷きながら聴くだけでも、スピリチュアルケアのお手伝いはできるかと思います。

 ただ、死生観などについて、今まであまり深い洞察をしてこなかった士業者側に対して、思いもよらないような死生観を、クライエントが語った場合、

士業者側が、心の中で「そんな話は信じられない。そんなことは絶対にあるわけがない。」等と思ってしまい、それが雰囲気的に、クライエント側に伝わり、ケアどころか不快感を与え、トラブルになる可能性もあるかと思います。

 サナトロジー(死生学)を通じて、世界に多々ある様々な死生観を学んでおくと、クライエントが語る思いもよらない死生観を、たとえ心底信じられなくても、また心底信じ切る必要もないのですが、

ただ、「そういう死生観もあるのだなあ。この方の死生観も尊重しなければ。」と思うことが出来るかもしれず、そのクライエントの想いを尊重する姿勢は、相手方にも伝わり、クライエントの死生観に真正面から向き合わずに、関係悪化を招くということもなくなるのではないかと私は思います。

 いずれにしても、終末期における身体的痛み、精神的痛み、スピリチュアルな痛み全てを、多職者(医療関係者、心理学者、宗教者、スピリチュアルカウンセラー、士業者等)がチームを組んで支えることを、「全人的ケア」といい、このようなケアを行うことをホスピスケア、緩和ケアといいます。

 士業者は、非常にドライな社会科学たる法律・会計・資産管理等の専門家で、そういう社会科学的学識の専門家である士業者は、スピリチュアルという言葉に胡散臭さを感じられるかもしれませんが、WHOの緩和ケアの定義にもこの言葉は出てきています。

(緩和医療:ウィキペディア)

(上記より以下引用)

「痛みやその他の苦痛な症状から解放する。
生命(人生)を尊重し、死ぬことをごく自然な過程であると認める。
死を早めたり、引き延ばしたりしない。
患者のためにケアの心理的、霊的側面を統合する。
死を迎えるまで患者が人生をできる限り積極的に生きてゆけるように支える
患者の家族が、患者が病気のさなかや死別後に、生活に適応できるように支える
患者と家族のニーズを満たすためにチームアプローチを適用し、必要とあらば死
別後の家族らのカウンセリングも行う。
QOL(人生の質、生活の質)を高めて、病気の過程に良い影響を与える。」

(引用終わり)

上記4つめの「患者のためにケアの心理的、霊的側面を統合する(integrates
the psychological and spiritual aspects of patient care;)」という部分がそうです。

 なお、「患者の家族が、患者が病気のさなかや死別後に、生活に適応できるように支える、患者と家族のニーズを満たすためにチームアプローチを適用し、必要とあらば死別後の家族らのカウンセリングも行う。」

という部分、

つまり死別後の相続業務等を行う段階でのクライエントに対しても、前述もしましたように、カウンセリング的アプローチや死生学的アプローチは有用だと思われます。

行政書士・マンション管理士・1級建設業経理事務士 佐々木 賢 一

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悲嘆反応の過程

  死別を余儀なくされた周りの人達も、その悲しみ(グリーフ)を向き合う必要があり、キューブラー=ロスの「五段階説」に類似した心理的過程を辿ると言われています。

 死には、「一人称の死(自分の死)」・「二人称の死(家族や親しい人の死)」・「三人称の死(彼・彼女といった他人の死)」といったように、人称があるとフランスの哲学者ジャンケレヴィッチはいいますが、「二人称の死」においては、死別による悲嘆が、心身に様々な影響を及ぼし、「悲嘆反応」と呼ばれる状態を引き起こします。

 日本における死生学のパイオニア、アルフォンス・デーケン上智大学名誉教授によれば、死別体験をされた方々が見舞われる「悲嘆反応」は以下のような過程を辿るとしています。

1段階:「精神的打撃と麻痺状態」

  親しい人の死というこのうえなくショッキングな出来事により、現実感覚が一時的に麻痺します。ショックを少しでも和らげようとする本能的な心の働きからだと説明されています。

2段階:「否認」

 親しい人の死という事実を、感情も理性も否定します。

3段階:「パニック」

 死に直面したという恐怖により、極度のパニックが起きます。

4段階:「怒りと不当感」

 「なぜ、自分だけがこんなことに・・。」「どうしてこんな不条理なことが・・。」という感情から、強い怒りの感情を持ちます。

5段階:「敵意とルサンチマン(妬み)」

 やり場のない怒りの感情を、周囲の人々に対してぶつけます。

6段階:「罪意識」

 「もっとこうしていればよかった。」「もっとやさしくすればよかった。」等と、過去の行いを後悔し、また自分を責めます。

7段階:「空想形成」

 まだ故人が生存しているかのように思い込み、実生活の中でも、そのような幻想の中に浸り、振舞います。

8段階:「孤独感と抑鬱」

9段階:「精神的混乱とアパシー(無関心)」

 当たり前だった日常を失った空しさから、どうしていいのかわからなくなります。

10段階:「あきらめ 受容」

11段階:「新しい希望 ユーモアと笑いの再発見」

 ユーモアと笑いと取り戻しつつあることは、悲嘆プロセスを乗り超えつつある証だとのことです。

 アルフォンス・デーケン氏によれば、悲嘆時におけるこの段階のみならず、日常においても、ユーモアと笑いがとても大切だとのことです。

12段階:「立ち直りの段階 新しいアイデンティティの誕生」

 悲嘆のプロセスを乗り越えて、より成熟した人として生まれ変わります。

 この過程も、キューブラー=ロスの「五段階説」と同様、個人差があり、必ずしも誰しもがこのような順序通りに過程を辿るわけではなく、逆戻りしたり、段階が重複したりする場合もあるようです。

 このような悲嘆のプロセスを辿り、より成熟した人として生まれ変わることを「グリーフワーク(悲嘆の仕事)」といいます。

  グリーフワークを無理やりに早く済ませる手立てはなく、時間薬ではないですが、どうしても一定の時間の経過が必要となります。

  スムーズにグリーフワークを行うためには、信頼のおける人に想いを聴いてもらったり、場合によっては心理カウンセラー等の心の専門家のサポートを受けるということ(グリーフケア)も必要となります。

 また、喪失体験の事実を認められるようになったら、つらい感情などを表に素直に出し、泣きたくなったら泣くことも大切だということです。

 落ち着いてきたら、故人がもういないということに対して、心の整理をつけ、但し、故人のことを無理矢理に忘れるために努力するというようなことではなく、故人との関係を再構成する(いつもどこからか見守ってくれる存在になった等)ようにし、新しい自分の、新しい物語を、紡ぎ出すことができるよう新たな第一歩を踏み出していくことになります。

参考文献)

『よく生き よく笑い よき死と出会う』 アルフォンス・デーケン著 新潮社 2003年
『新版 死とどう向き合うか』 アルフォンス・デーケン著 NHK出版 2011年


行政書士・マンション管理士・1級建設業経理事務士 佐々木 賢 一

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キューブラー=ロスの五段階説

 サナトロジー(死生学)の母とも言えるのが、エリザベス・キューブラー=ロス(1926 - 2004)です。

 スイスのチューリッヒに生まれたキューブラー=ロスは、アメリカに渡って精神科医となり、臨床研究を発展させていく中で、終末期の患者との関わりや、悲哀(グリーフ)の考察、悲哀の仕事(グリーフワーク)についての先駆的な業績を残しました。

 彼女の代表的な著作としては、1969年(日本では1971年)に発表され大ベストセラーとなった、『死ぬ瞬間』(On Death and Dying)があります。

 その『死ぬ瞬間』で発表された死の受容のプロセスに関するキューブラー=ロスの学説が、「五段階説(キューブラー=ロスモデル等と呼ばれる場合もあります。)」です。
 
 離婚・失恋・死別・破産・失業・病気・死が近づいた終末期等の体験を、「喪失体験」といいます。

 そんな喪失感の中に浸りきり、当初悩ませる「納得できない。」という苦悩が消え失せ、諦め(この言葉にはマイナスイメージがありますが、本来は「事物を明らかし、真理を悟る。」という意味の仏教用語です。)、

「人生とは諦めの連続だ。人生とは諦めであり、諦めこそが人生だ(キューブラー=ロスの言葉)。そう思えれば、人生もまた結構楽しいものだ(これは、フロイトの言葉。)。」という境地に達するといいます。

 ただ、この境地に達するためには、キューブラー=ロスによると、

1.否認(喪失を認められない。)

2.怒り(なぜ、私だけがこんな体験をさせられるのだ!という怒り。)

3.取引(なんとかこの状態から救ってくれ!と天に祈ったりする。)

4.抑うつ(ショック状態、極度の緊張状態が継続したことによる心身不調となる。)

5.受容(運命との闘いを止め、運命を受け入れ、もがき続けることから開放され、静かで安らかな気持ちとなる。)

という、5つのステップを経る必要があるとされています。

 これが、キューブラー=ロスの「五段階説」です。

 キューブラー=ロスは、死期が近づいた200人の患者さんとの対話を通じて、このような受容への過程を提唱したといわれています。

  ただ、過程が重なり合って現れたり、受容にたどり着かない間に死に至る場合などもあって、その体験には、個人差があるようです。

 終末期の患者さんが、受容の段階にたどり着くと、最後にデカセクシスという段階を経て、死を迎えるといいます。

  デカセクシス(Decathexis)とは、現世との完全な断絶を自覚することであって、仏教でいう「解脱、涅槃の境地」・「無我の境地」(究極の安らぎの境地)などに該当するとも言われています。

 受容までの継起的な段階を通過した者だけが、このような平安な状態にたどり着くことができると、キューブラー=ロスはいいます。

 デカセクシスに至ると、数時間から数週間、短い間隔で、頻繁に新生児のようにウトウトとまどろむといわれています。

 その後、臨終が来るとのことです。

 仏教では、凡夫(平凡な人)は、涅槃(安らぎの境地)には、たやすく到達できないとする説もありますが、キューブラー=ロスによれば、誰でも周囲の人々の愛と協力(その本質はコミュニケーション)があれば、容易にデカセクシスに到達できるといいます。

 『死ぬ瞬間』を訳した、翻訳家の川口正吉氏(1912-1982)は、『死ぬ瞬間』のあとがきで、以下のように臨終の段階を定義しています。

(『死ぬ瞬間―死にゆく人々との対話』 エリザベス・キューブラー=ロス著 川口正吉訳 読売新聞社 1971 あとがきより以下引用)

「臨終とは、薄暗いベッドルームに宇宙の風がごうごうと吹く荘厳なドラマである。
あの限りなく複雑な精神と肉体、物質と魂とのかたまりである小さな生命体が時間と空間とを造物主に返し、宇宙の霊(スピリット)と融合して永遠性を獲得する瞬間である。」

(引用終わり)

 ちなみに、心理カウンセラーは、クライエントが、上記の5つのステップを歩む際に、傍らにいて、サポートすることを職務とする専門家であると私は考えます。 

 つまり、人が、過酷な喪失体験を受け止め、喪失対象をあきらめていく過程を、少しでも安心できる方法で行えるようにサポートする職種だということです。

 ですから、安易に、「頑張れ!」とか、「希望を持て!」とか、「諦めるな!」等とカウンセラーは言わないものと思います。

 喪失対象を「あきらめる」ことのサポートをするわけですから、何の根拠もなく、「あきらめるな!頑張れ!希望を持て!」などといい、ありえない幸福状態に移そうとすることは矛盾になるからです。

 「あきらめざるをえない。」のに、「あきらめるな!頑張れ!希望を持て!」と励ますことは、よくよく考えると過酷すぎることですし・・。

 ユングは、

(以下、「心理療法論」 カール・ユング著 林道義編訳みすず書房 p71より以下引用) 

「心理療法の最高の目的は患者をありえない幸福状態に移そうとすることではなく、彼に苦しみに耐えられる強さと哲学的忍耐を可能にさせることである。」

(引用終わり)

と言っていますが、これを言い換えると、「喪失対象を「あきらめる」ことのサポートを、安心、安全にプロフェッショナルな技術をもってするのが、カウンセラーの仕事である。」といえるものと思います。

 喪失感が、強すぎて、苦しすぎてつらすぎて、どうしようもない場合は、そんな技術を持った信頼のおけるカウンセラーを頼ってみるのもよいかもしれません。

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